どんな本?
「合理的な」経済モデルは、人々が常に正しい判断をできるという前提で構築されています。しかし我々は同じ条件で同じように不合理になり、それは繰り返し起きます。そのため「予想通りに不合理」なのである、と筆者は述べています。
著者のダン・アリエリー氏は、オリジナリティに溢れ誰もが興味を持つようなテーマの論文を多く執筆されています。本書は、氏の論文をユーモアを交えつつ一般の人にも理解できるようにまとめた本となっています。
おもしろい実験の数々
本書の特徴として、数々のおもしろい実験が紹介されている点が挙げられます。たとえば次のようなものがありました。
筆者が教えている大学の講義にて、初回授業のとき学生たちにこう伝えました。
12週間で3回のレポートを提出してもらいます。
3回それぞれのレポートの提出期限は、自分で決めて表明してください。ただし一度決めたら変更はできません。
1日遅れるごとに成績を下げますが、どのレポートも学期の最後に読むし、早く提出したことで成績を優遇はしません。
さて学生たちはどのようなスケジュールを立てたのでしょうか。
問題を自覚し克服する
前述の例では、学生にある程度の選択権がありました。実験の結果を比較するため、異なる条件で他の2つのクラスにも同じような実験が行われています。
レポートの期限は学期末で、いつ提出しても良いです。(完全に選択権がある)
レポートは4週目、8週目、12週目にそれぞれ提出です。(完全に選択権がない)
これら3つクラスの最終成績はどうだったかというと、選択権の不自由さの順でした。つまり、完全に選択権のないクラスが一番成績が良かったのです。逆に一番成績が悪かったのは、完全な選択権のあるクラスでした。
この実験で最も興味深い点は、学生に選択権を与えるだけで成績が向上するという点です。強制的に決められる場合ほどではないにしろ、自分の行動傾向を把握し適切に期限を設定できた学生は、成績を上げることができたのですから。
このように、本書には行動経済学により自身の行動傾向を把握することでのメリットも説かれています。
さいごに
行動経済学が示した「不合理さ」があまりにも広まったせいか、近年ではあまり適切でない例もある気がしました。たとえば、一番初めに説明されている「エコノミストの三択」は、現代では一番安価な選択肢を選ぶ人が多そうです。
このように少し疑問もある行動経済学ですが、豊富な事例・実験に基づいており読者の共感を呼ぶ内容になっていました。顧客がいて何かを販売している職業の人なら、一つのツールとして覚えておくと良さそうですし、読み物としてもおもしろく読めるのではないかと思いました。